大好きな賀茂川 (13)

 おーい、おかーさーん! 

 遠くで子どもたちが呼んでいる。近づいていくと大喜び、走って逃げていきます。子どもって追いかけっこが好きだなあ。

 秋ですね。賀茂川(鴨川)散歩が日課のわが家、ケヤキや桜、原っぱが少しずつ色づいていくのを日々楽しんでいます。秋空に浮かぶ雲もすっすっと筆で書いたようなのや、子羊みたいなふわふわ、儚(はかな)げな優しいかたちをしている。

 賀茂川がいい場所だなあと思うのは、草刈りやお掃除が行き届いていて、看板とか柵といったもので川や土手を守ろうとはしていないこと、長々と寝転べるベンチがあること(寝られないようになっているベンチってケチくさいなあと思ってしまうのです)。散歩やジョギング、楽器の練習など、何かをしに来る人と、ひたすらのんびりと、何にもしないことをしに来る人が調和して、穏やかな景色を作っているんですよね。いつ来ても、ここには空があって、水があって、緑があって、小さな生きものの気配があって、そして行き交う人がいる。先日は学園祭の一環なのか、町娘や町人など、時代劇の扮装(ふんそう)をした学生さんたちが。急に河川敷が江戸時代にタイムスリップしたみたいで、愉快な気持ちになりました。

 おーい! おかーさーん!

 また、遠くで子どもたちが呼んでいる。うちの子どもは、必ずと言って良いほど、原っぱを走り回っているのです。走って転んで、草をむしって投げて、また走って。遊び道具は何にもいらないみたい。原っぱを見ると走る、これは何かの法則なのか。走りたくなる何かの物質を、草が出しているのかしら? 一方、夫はというと、こちらはいつもレジャーシート持参で原っぱに寝ころんでいます。草からは眠くなる物質も出ているのだろうか…。でもまあ確かに原っぱに寝転ぶのは気持ちがいいんですよね。私も、ごろり。

 大好きな場所がすぐ近くにある幸せ。春はお花見、夏は早めの晩ご飯をお重に詰めて夕方ピクニック。秋は東の山からのぼる中秋の名月。冬は雪だるま作り。我が家の暮らしは、いつも賀茂川とともに。心のよりどころになっています。

 

  (京都新聞 2015/10/22掲載)