新しい本との出会い  (10)

 本屋さんで新しい本に出会う瞬間。日々の暮らしのなかの、ちょっとした幸せの時間です。

 子どものころから本が大好きでした。本を開いた途端に、私は私じゃなくなって、友達とクジラをつかまえに行く冒険の旅に出発したり、気味の悪い大きなトロルに立ち向かう一頭の賢いヤギになったり、しましまの竜の背中に乗って空を飛んだり、大切な友達からの手紙を、送ってくれた本人と共に玄関で待っているカエルになったりするのです。本の中でなら何にでもなれる! 物語の世界に自分がしゅっと吸いこまれていくのが楽しくて、ちょっと怖くって、どきどきして。いつも夢中になって読んでいました。

 新しい本と出会ううれしさや読む喜びは、今も変わらずに私のなかにあります。まだ読んでいないものがこんなにたくさんあるんだと、本屋さんに行くたびにわくわく。ご飯や空気と同じように、本は自分にとってなくてはならない大事なものです。

 私が何年か前に翻訳をした『ほんやのいぬくん』という絵本は、本が好きすぎて本屋を始めることにした一匹の犬の話。いぬくんが本の手触り、匂いにうっとりとしている様子が実に愛らしく、お客への本の薦め方も上手。こんな本屋さんがあったらいいな、の理想型でした。

 京都の本屋さんは、大型の書店から、店員さんの個性が光る小さなお店まで幅広く、層も厚く、充実していると感じます。大きな本屋さんでは、自分が大海原を泳ぐ魚になった気分であちこち探検できるし、小さい本屋さんなら、ここにはきっと選(え)りすぐりの面白い本が集まっているんだろうなと思って、それはそれで鼻息が荒くなるのです。

 写真の書店「メリーゴーランド」は古い趣のあるビルの5階にある、児童書を中心に扱っているお店です。以前ここで買った『ちいさいトラック』という絵本は、二歳の息子の一番最初のお気に入りとなりました。

 上の娘からは「お母さん、これ面白いよ」と本を薦められることも増えてきて。そのうち、本屋さんめぐりのよき相棒になりそうです。

 

  (2015.7.23. 京都新聞掲載)